窓ガラスに当たる微かな水の音が、外の天気を教える。
灰色に染められた空から落ちてきた雨が、アスファルトを黒く染めていく。
真一は小さくため息を吐く。
今日、ここに来る予定の人間は、きっとずぶ濡れになってしまう。
そして、それを、自分の所為にされる。
真一はそこまで考えもう一度ため息を吐いた。
しかし、洩れるため息とは逆に、頬に笑みが自然に 浮かぶ自分に気が付き、真一は苦笑した。

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雨の音で聞き取りにくいチャイムに、急いで玄関のドアをあける。
そこには案の定ずぶ濡れで、自分を睨む大和が居て、真一はため息を吐いた。

先に用意しておいたバスタオルで大和の身体を包み、ハンドタオルで濡れた髪がはりつく頬を拭う。
廊下には、髪から垂れる雫が点々と跡を残す。

「別に急ぎの用事じゃないなら、どこかで雨宿りするとか、傘買うとかして下さいよ」
少しだけ怒ったような表情でそう言う真一に、大和は眉を寄せて不満をあらわす。
「せっかく来たのにひどくねぇ?」
「酷くないです。身体壊したらどうするんですか?」
雨に濡れた大和の髪をタオルで優しく拭きながら、真一はため息混じりにそうつぶやいた。
バスルームへと誘導しながら、ぶつぶつと文句を垂れる真一に大和は腹を立てる。
「真一のバカ」
「バカじゃないです。こんな寒い日の雨に濡れてくる大和君の方が馬鹿ですよ」
罵倒はすぐに言い返され、大和は唇を尖らせる。

バスルームのドアに手をかけた真一は一瞬悩んだそぶりを見せ、大和を振り返る。大和は小首を傾げ、真一の視線を受け止めた。
「そんなに俺に逢いたかったんですか?」
唐突な真一の台詞に、大和は唖然とする。
真一の表情は真面目なそれで、大和は笑ってごまかせなくなった。
「…そういうわけじゃ…ないんだけど」
苦笑しながらそう答える大和の台詞に、真一は少し哀しそう顔をした。
「でもさ」
ドアを開け、脱衣場に足を踏み入れた大和はくすりと笑う。その笑みに、今度は真一が首を傾げる。
「どうせ、服は脱ぐコトになるんだし」
つぶやきながら、真一の目の前でシャツのボタンをゆっくり外して行く。真一はうろたえた表情のまま、大和のその行為を眺めた。
シャツのボタンが全て外れて、濡れたシャツが肩から落ちると同時に、大和は真一に抱き付く。
真一は大和の冷えた肩を抱きしめ、その瞳を覗きこんだ。大和は悪戯っ子の様な笑顔を浮かべていて、真一は困惑する。
「やま…と…?」
冷たい指先が自分のシャツのボタンを外していて、問いかけると笑顔が返ってくる。真一は、大和の肩を掴み、問い正すようにその瞳を見つめた。大和はふわりと微笑むと口を開く。
「冷えてたら、お前があっためてくれるじゃん?だからそのまま来たんだぜ?」
大和の言葉に、真一は驚いた表情を浮かべた。
大和はくすくすと笑うと、真一の耳元に己のを寄せ、囁く。

「風邪引かせたくねぇなら、早く俺のコトあたためろよ」

[end]


初稿0202。雰囲気エロ狙い撃沈です(笑)