6月の雨が憂鬱なんて、誰が決めたのだろう。
泣き出した天。不意に降り出す大粒の雨。 ぽつぽつと傘にあたり、曲を奏でる。 …傘が羨ましくなり、それを道路へと置くと、天にむかって両手を広げた。 髪に頬に唇に。 雫は、あたってははじけていく。 身体に張り付いたシャツと、水を吸って重くなった ズボン。染めたてならきっと色落ちしてしまうほどに、髪はびっしょりと濡れてしまった。 それでも何か楽しい気分を捨てられず。 「シャワーみたい、じゃね?」 感心するように天を仰いで大和はそうつぶやいた。 上を向いた所為で、瞳に口にも雨が突き刺さるように落ちてきて、一瞬不快そうな顔になる。 「風邪…ひきますよ?」 大和の様子を見ながら、真一は傘の下で苦笑した。 「ひかねぇよっ。この雨やんだら、もう夏だぜ?」 くすりと笑ったそうつぶやいた大和は、びしょ濡れの身体のまま真一に抱きついた。 「や…大和っ?!」 驚いた真一は傘を思わず手放し、その身体を抱き止める。そして辺りを見回し誰もいないことを確認して安堵のため息を吐く。 「この天気じゃ、誰もいないって」 くすくすと笑いながら大和は抱きついた腕の力を強める。濡れた身体から伝わる熱と、染み込んでいく水分は、夏の匂いがした。 「大和さぁ…雨って嫌いじゃなかったですか?」 「ん〜?」 大和は問いかけと同時に抱きしめ返してきた腕に微笑すると、真一の腕の中で顔をあげる。 「…だから…、雨って嫌いじゃーー」 「なんかさぁ、雨って暗くなるじゃん?…でもさ、 こういう雨なら、好きかも知れねぇ」 視界を阻む雨から逃れるように、大和は真一の胸に顔を擦り寄せ、笑いながらつぶやく。 「…こういう雨って?」 大和の言葉の意味がわからず、真一が首を傾げる。大和は真一の声の様子を聞きながら、少し強く、真一の身体に抱きついた。 「夏の前の、雨」 「…?」 「気持ちいいじゃん。これさえ終われば、夏、だし」 「ふ〜ん…」 答えに真一は不思議そうな顔になる。大和は一呼吸おいて言葉を付け足した。 「お前と一緒に雨にあたってるから、かも知れないけど…な」 6月の雨は憂鬱だけじゃなく、たまには幸せな色に染めてくれる筈。 恵みの雨。 心まで、潤すように。 [end]
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初稿0106。私自身が雨好きなので。…旅行時に降らなきゃな…(雨女) |