それさえも愛しいから。


「なぁなぁ」
服の裾をきゅぅ…と掴む、己よりもほんの少し小さな彼を見つめる。
ふわふわの茶色の髪。整った柳眉に、意志の強そうな茶色の瞳。
真っ直ぐ、自分を見つめる。
「なんですか?」
笑んで問いかければ、彼も笑顔になる。
「あのな、俺、あとちょっとで二十歳」
にぃ、といつも通りに笑うと、時計を指し示す。時間は23:50。分で表せば10分。秒で表せば600秒。
――あと少しで、遠い人になる。
「…そうですね」
知らず苦笑する俺に、彼は不服そうに唇を尖らせた。
「なんだよ、祝ってくれねぇの?」
「…俺的には、あんまり…めでたくないなぁ…なんて」
くしゃり、と彼の髪を撫でる。気持ちよさそうに一瞬目を細めるその表情は、猫科の生物を思わせた。
「ん…なんで?」
髪を撫でられながら、彼はため息混じりに問うてくる。俺はただ苦笑を返すしかない。
「前にも、言ったよ?」
「…年、離れるから?」
「…明日のは大きいよ」
俺は18歳、彼は20歳。どう足掻いたって縮む事のないその差は、俺をいつも苦しませる。
「…だから、祝ってくれねぇの?」
むぅ…と困ったように小首を傾げながら、彼は申し訳なさそうにそう呟いた。
「そういうわけじゃ…ないですけど…」
「俺は、お前に、…一番最初に、20歳の俺を見せたげたいから、今日、ここにいるんだぜ?」
言い淀んでしまう俺に、彼は照れ笑いでそう言った。

ピ…と時計が0時を告げた。同時に時計を見つめ、顔を見合わせ笑う。

「ほら、祝って…くれんだろ?」
くす…と笑いながら、彼は目を閉じて、俺の首に腕を回した。

何も悩む必要なんでないのに。
ずっと縮まらないこの差ごと、愛せばいいだけで。

「…20歳、おめでとう」
言葉とともに口付ける。


ずっと、愛してるから。



[end]


大好きなあの子の誕生日に書いた話。
モデルはいるけど書けないので(笑)、いつも通りに、登場人物の名前のない話です。