甘い憂鬱


「…ん………ふ…っ……」
押し殺した悲鳴。それでも洩れ出る甘い吐息。
潤んだ瞳。紅潮した頬。汗ばむ躯。

貴方のそんな姿を見ることが出来る俺は、誰より幸せだと思う。
でも。

…募るのは罪悪感。

「し…ん…?」
俺の頬に触れ、俺の表情をいぶかしげに見つめる柔らかな茶色の視線。俺は苦笑を返す。
「…どした?」
触れた手は温かく、胸が苦しくなる。
言葉を発するのがもどかしくて、ただ、唇を塞いだ。
唇を甜めあげ、口腔に舌を挿し入れ、歯列をなぞり…存分に犯していく。
唇の端から首筋へと流れるその蜜をたどれば、自分の付けた痕に行き付く。
貴方に残る、俺という証拠。

汚している気がして辛くなった。

真っ白な貴方を、俺で汚している気がして。

「ごめん…」
小さく謝罪し貴方の躯を抱きしめれば、すぐに首にまわされる優しい腕。
「…なんで、…謝ん…の?」
「ごめん……」
俺の答えに貴方は眉を寄せる。そんな表情をさせたくはないのに、気が付くと…いつも貴方を困らせている。
「……なんで、お前…、泣きそうな顔すんだよ」
「え…?」
不意討ちのように、貴方の胸に逆に抱き込まれ、一瞬ためらう。それでも、体温と鼓動が心地よくて、その胸に顔を埋めた。
「…泣いても、いいけどさ」
「やま…と?」
くすっ…という、小さな笑いの含まれた吐息が髪を揺らす。俺は、ただ、困惑する。

「俺…で、いいんですか?」
そして、問うてしまう。
抱く度に思うことを。
誰より純粋な貴方を、汚しているような気がして。
「…何が?」
少し冷めた声が返ってくる。俺は…顔を上げ、貴方の表情を確認する。
「…だから…俺なんかが、貴方を…」
「ばか?」
言いかけた言葉は、罵倒の言葉で打ち消された。
俺が小首を傾げると、貴方はふわりと笑う。
「お前じゃなきゃ、嫌だよ」
そしてまた、抱きしめられる。
「…え?」
疑問の声を上げると、ぎゅぅ…っと更に強く胸に包まれた。

「お前が、好きなんだからさ」

俺は嬉しくなって、貴方の躯を抱きしめ返す。
「俺も、貴方が好きです」
告げると、抱きしめた腕は緩み、かわりに唇が近付く。受け止めれば、深くなる接吻。

「じゃぁ…続きしよ?」
甘い唇が離れると、貴方はそう口にする。俺は笑ってそれを承諾した。


貴方は俺を好きだという。
だから、俺は貴方を抱く。
汚すことへの罪悪感と、
自分だけだという優越感。


それはきっと、甘い憂鬱。

[end]


初稿0201。攻→受、と見せかけて、攻←受というのが自分の萌なんです(苦笑)。
真っ白な貴方。…まぁね…バカだからね…。