ゴミ箱でロマンスを。


机とベッドの間に置かれた小さめのゴミ箱は、真白いティッシュを丸めたもので埋め尽くされ、それ以上の侵入者を許さない状況だった。

「わー…恥ずかしいぃ〜」
ドアを開けた直後、そんな台詞を浴びてしまい、俺はうなだれるしか出来なくなる。
「人の部屋に入って早々…なんですか…」
わかっているのだ、何を言われるかは。わかりやすい程にわかりやすく、そういう状況なのだ。
「や、ゴミ箱が」
「…そうですね」
たとえ、小さめのゴミ箱で容量が少ないから、などと言い訳しても、彼は全く無視するだろう。それもわかっている。
「客来る前に片せよー」
すとん、と俺のベッドに座りながらも、ゴミ箱から視線を離さずに呟かれる台詞は、軽い笑いを含んでいて。
「じゃあ、客として来る前に、連絡してくださいよ」
彼の隣に座りながらそう答える。俺が座った所為で、ベッドが軽く弾んで、彼の身体を揺らしたが、視線はやはり動かない。
「あ、そっか。わりぃ」
ぱたぱたと足を動かしながら、にぃと笑う。意地悪そうな瞳はイタズラを思いついた時の顔。俺は思わず溜息を吐いた。
「別に謝らなくても…いいんですけどね」
吐かれた溜息の音に、彼は満足そうに笑うと、やっと俺へと視線を移す。相変わらず、意地悪な瞳。
「俺だってー、こぉんなにゴミ箱が恥ずかしい状況だってしってたら、ここに来るの考えたけどさぁ?」
『ゴミ箱』と発するとともに、そこを指差す。溢れんばかりの白い塊。隠しようの無いそれ。
「ゴミに突っ込みいれるのやめて下さい…」
もう一度溜息を吐きながらそう言うと、彼は俺の膝の横に手をついて、わざと俺の顔を覗きこむような体勢で、にひゃと笑う。
「だって、丸めたティッシュいっぱいじゃん」
「…そうですね」
顔を背けて答えると、更にいやらしく笑った。
「生理現象、でも恥ずかしい、じゃん?」
「そうですね」
自分の顔が次第に苦笑していくのがわかる。嬉しそうに笑っている彼と対照的に。
彼にいじめられるのは、そうそうない。
「若いねー」
「若いですよ」
でも、やられっぱなしは、キャラじゃない。
覗き込むイタズラな瞳に視線を合わせ、その顎に指を添えた。
「…ふぇ?」
「確かに俺は、貴方より若いですよ。でも、何日も貴方に触れられなかったんだから、これくらいで、普通ですよ」
にやり、と出来るだけ得意気に笑うと、彼が唇を尖らせる。俺の答えが不満だと言わんばかりに。
「…俺のせいに、すんなよ」
勢いをなくした瞳の力。俺を見つめるでもなく、伏せられていく睫の影が綺麗。
誘うような、その表情。
「…してないですよ、貴方を好きな、俺の所為、ですから」
顎に添えた指をそのまま持ち上げて、小さくキスをした。
「…ばか」
離れると同時に聞こえた、小さな台詞に、俺は笑う。

「まぁ、八割は、鼻風邪のせいですけどねー、ゴミ箱」
「………っ?!」




[end]


ロマンスってかギャグですね。
日記から抜粋。改稿なし。