はらぺこハニー。


「腹減った」
ぺたんとしゃがみこみ、こちらを伺うような視線。上目遣いで見つめられるのは好きだが、如何せん、台詞に色気が無い。
「さっきからずっと喰ってますよ」
溜息とともに返す言葉。折角だから、さっき先輩が食い散らかした菓子の袋を眺めてやると、先輩はぷぅと膨れてみせる。
「でも減った」
駄々をこねる。ぺちぺちと床を叩き、催促する。
バカみたいに可愛くて、眩暈を覚える。
「…だから、お腹とかぷにぷになんですよ」
それでも、その誘惑に負けないように、自分もしゃがんで、先輩のシャツをぺろりとめくって、その腹をぷにりとつまむ。そう、つまめるほどの肉。
「うっせぇよ」
ぺちり、と俺の手を叩き、先輩を俺を睨む。至近距離でのその視線は、攻撃にならない。大きな瞳に精一杯の嫌気を取り込んで見せても、全然怖くない。
可愛くて仕方が無い。
「触り心地いいから、別に俺は、今のままならいいですけど」
叩き落された手をシャツの中にもう一度滑り込ませ、脇腹をゆっくりと撫で上げた。
ひく…と、先輩が息をのむ。
抵抗は、ない。
「…けど、なんだよ」
俺を睨むその瞳に、じんわりと広がっていく困惑の色。滲んでいく透明。
「それ以上太ったら、重いから、………や、なんでもないで…す」
くす、と笑って、俺は手を離す。先輩は困ったように眉を寄せると、俺の肩を掴んだ。
「…重いから、なんだよ」
揺れる声。攻撃的な色のない、ただ、俺を伺う視線。
俺は笑って、さっき掴んだせいで皺の寄った先輩のシャツを直して、立ち上がる。先輩も少し驚いた顔をしながら、俺に釣られて立ち上がった。
「何でもないですよ」
ちょっと首を傾げてそう言うと、先輩を唇を尖らせた。
可愛らしいのその唇に、指を触れさせると、かぷり、と噛みつかれる。
「何でもないなら喰う」
歯形を付けて、にぃと笑うと、先輩は俺から離れようとする。俺は苦笑しながら彼の腕を引き、自分もろとも近くの椅子に座り込み、彼を膝に乗せる。
不満そうな顔の先輩に、にこりと笑みをむければ、先輩はふぃ、と顔を背けた。
多分、照れ隠し。
「そう、ですか」
向かい合わせで座り、先輩の背中を抱き締める。先輩は眉根を寄せつつも、大人しく俺の膝に座ったまま。
「何でもねぇんだろ?」
近づいた俺の腕に噛み付こうと牙をむきながら、先輩は小首を傾げた。
俺は先輩の背中を抱き締める手を、ゆっくりと下降させながら、耳元で、呟く。

「実は、…騎乗位、きっついんですよね」

「あぁ?!」
呟いた台詞に、先輩は素っ頓狂な声をあげたが、すぐにその悲鳴は、俺の唇に封じ込められた。





[end]


ロクでもねぇー(笑)。タイトルからふざけてますね。
自分ではわりと好きですが。