「大丈夫か?」 いつも通りの表情でそう問われる。 何処が、とも、何が、とも言わないから、俺は小さく笑いを返した。 「見たまま、かな?」 ボタンが全て弾け飛んだシャツを肩にひっかけ、汚れたズボンを軽く払うと立ち上がる。 に、と笑みを作って、視線を合わせると、冷ややかな眼差しが返された。 「大丈夫なのか?」 同じ問掛け。 俺は思わず溜め息を吐くと、両手を広げて肩をすくめた。 「…無傷だよ」 そう答えてやると、やっと表情を和らげる。 「でも」 「何だ?」 一言付け足しただけで眉間に皺が寄るのがおかしい。 「ここ」 己の唇を指で示し、苦笑する。 「…何だ?」 「キス、されちゃった」 出来るだけ、おどけた調子で言う俺に、彼はただ溜め息を吐く。 「そうか」 「うん」 「キス、されただけか?」 「うん」 一度天を仰ぎ、彼は溜め息を吐く。俺は笑いながら、彼の首に腕を回した。 「…何だ」 「消毒、してくれよ」 片腕を彼の首に、空いた手指で、自分の唇をなぞる。 「なぁ?」 唇を笑ませて小首を傾げる。 「仕方ないな」 ふ、と彼は笑い、己の眼鏡を外すと、後ろに放り投げた。 「消毒、だけでいいのか?」 笑んだ唇はその言葉を吐くと同時に俺の唇に触れ、俺は返答できなくなる。 唇の輪郭を確かめるように舌が触れ、薄く開いた唇の隙間にそれが忍び込む。ぬるりと動き回る舌が、口内の至る所に触れてまわる。 背筋がぞくぞくする快感。 戯れに舌を軽く噛むと、逆に強く舌を吸われ、笑う膝を誤魔化せなくなる。 「ふ…ぁ」 零れた声を引金に、離された唇。 顔を見やれば、にやりと笑まれ頬が熱くなる。恥ずかしいくらいに赤面している筈。 「消毒…っ?」 言葉の端に抗議を込めてぶつけるが、笑みに遮られ効果はない。 「消毒だが」 くっ、と笑うと、彼は俺の首筋に唇を押し当てた。 「ちょっ…待っ」 「何故?」 思わず慌てた声を出す俺に、彼はただ笑んだまま。 「消毒、終っただろ?」 「あぁ、そうだな」 そう答えると、彼は俺の体に指を伸ばす。接吻で敏感になった体にはダイレクトに響いてしまい、知らず背が跳ねた。 「や…ぁ、ん…」 文句を言いたくても、口からは吐息が漏れるばかりで、意味をなさない。 「なぁ…」 首筋に置かれた唇は、気が付けば耳朶に触れていて、彼が喋る度に、体は熱くなる。 「ん…だよ…」 「消毒だけじゃなく、耐性をつけるというのはどうかと思ってな」 くす、と笑い混じりの声。俺は仕方なく、彼の体を抱き締める。 「…予防、なのか?」 耳元で問掛けると、彼は俺の耳元で笑う。 「そういう事」 もう何度目になるかわからない、彼からの予防接種を受ける。 何度受けても、彼の体に慣れる事なく、ぐずぐずに溶かされるのだから、あまり意味はないのかもしれない、と、抱かれながら考え、笑った。 [end]
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実は版権でした。 余りにもツボな眼鏡攻で、受が自分の一番好き声優だったので、こう…ムラムラと書いてしまいました。 そんなわけで、実は、絢爛舞踏祭のヤガミ×グラムで、グラムがちゅぅされた相手はキュベルネスとか勝手に捏造して書いてしまいました(笑)。 |